yama_title_s.gif (6k) (20)〜八仙嶺追悼登山〜

今年2月10日、香港山岳史上最大の惨事が起こった。中学生と先生あわせて5名の犠牲者を出した、まだ記憶にも新しい「八仙嶺山火事遭難」である。
八仙嶺は純陽峰錘離峰果老峰拐李峰曹舅峰采和峰湘子峰仙姑峰の八つの峰から構成される山でウィルソン・トレイルの一角をなす。その八仙嶺の中で一番東に位置する仙姑峰を大尾督(Tai Mei Tuk)から目指していた中学校のハイキング・グループが山火事に見舞われたのだ。

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例年11月から2月いっぱいは香港はいわゆる乾季にあたり、各郊野公園には山火事の注意報が乾燥度によって報じられている。実際に歩いてみるとよくわかるのだが、まさにちょっとした火でもあっという間に火が広がってしまう程にこの時期山はよく乾燥している。普段は湿気と暑さに苦しめられる香港であるが、暑さと湿気から解放されて天候が安定するこの時期が香港登山のベスト・シーズンともいわれる由縁でもある。
当日中学生と先生たちが仙姑峰を目指していたルートは正直いって一般ルートでは無い(従ってウィルソン・トレイルでもない)。今回の惨事の新聞報道の中でウィルソン・トレイルの表現を使った報道も散見されたが、ウィルソン・トレイルにとってはとんだ迷惑でもあったといえる。というのも大尾督から仙姑峰までの直登ルートであるこのルートはかなりの急登で、しかも仙姑峰手前は岩場での登りも要求される。初めてこの悲報を聞いた時はなぜこのルートを選んだのかとの疑問が真っ先に浮かんだものである。

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とかく惨事の後には美談がつきまとう。今回も山火事に見舞われた中学生の集団を自らの命も顧みることなく犠牲にし救助にあたった先生の美談が香港マスコミを賑わした。香港版「聖職の碑(いしぶみ)」である。
しかしである。 なぜ、中学生たち(ほとんど山歩きはど素人)にこのルートを歩かさせたのか?訓練ならば生徒と引率先生のバランスはとれていたのか?(ベテラン先生に対し引率される生徒の数が多すぎはしなかったのか)最終的に山火事の原因となった要因が言及されたのか?原因を天災や事故で片付け、その中で生徒を救おうとした先生の美談を称えることが、この惨事を目にしたものの本当の使命なのだろうか? 我々はあえて厳しい追及も時として必要なことがあるということを忘れてはならない。それが2度と同じような惨事を繰り返さない本来の追悼となるからだ。前置きが長くなったが、以上の様な自問も含め八仙嶺追悼登山を行った。

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登山口である大尾督(Tai Mei Tuk)まではKCRの大埔からダブルデッカーで3.30ドル(75Kのバス)。終点が大尾督となる。ここから郊野公園管理事務所まで新娘潭路を歩く。実質的な登山口だが歩いて5分足らずで今回の惨事を追悼かつ犠牲となった先生二人の生徒救助の尽力をたたえた記念の堂「春風亭」が設けられている。ここで最初の合掌をとなえ追悼登山を開始。
「春風亭」から10分足らずで今度は教育徑と別れ仙姑峰を目指す。この分岐点は非常にわかりにくい。仙姑峰への本来のルートは教育徑を進み、ウィルソン・トレイルに出て北部から周りこむ形で仙姑峰を目指すのが一般ルートである。この一般ルートからはずれた直登ルートはかなりきつい。最初は森の中をすすむが、やがてすぐに草むら地帯に入る。

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2月上旬の惨事から2ヵ月近くたってもなお、山火事のつめあとが鮮明に残っている。この草むら地帯に出たところにも遭難の碑があり、多くの花や菓子に我々も再び手を合わせる。ここはプレーバー・コーブ等見渡す景観もすばらしく黒く残った焦げあとがなければ惨事の跡とは想像もつかない場所でもある。振り返った時の絶景と想像される惨事の地獄絵とが折り重なり、いい表わし様のない複雑な気持ちの中を再び登りつめれば大きな岩場に出くわす。この岩場を登り切れた生徒は助かり、その気力を失った生徒や生徒の救命に最後まで力を振り絞った女の先生は、この岩場で力尽きたという。岩場にはここで力尽きた犠牲者の名前が記してあった。
ここまでは登山口から55分。時間にしてわずか1時間弱のルートだがエスケープルートはまったく無し。登るか下るか、選択枝のまったくないルートである。(火の中をあえて下る決断は当時の危機的状況下では判断しかねたと思うが) その生死の境目となった岩場であるが、中学生でなくとも我々山の仲間たちでもてこずる難所であった。平常心の時でさえ、岩場のルートのとりかたに多少の経験と考察が要求されるがパニックに陥った状況下でたちふさがった大きな岩はこれでアウトの絶望的存在であったことが誰にでもうかがえる。この岩場を10分(わずかである)程登りつめれば仙姑峰の頂上。久々に重苦しい登山であった。自分なら同じ状況でどういった行動をとったか、自問自答を繰り返し頂上で再度合掌。[96/04/09]

山火事の跡の八仙嶺(16k)
山火事の跡の八仙嶺

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